通説以上、陰謀論未満

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「エビデンス」は「根拠」という意味ではない

エビデンスが必要です」「エビデンスが足りません」など、エビデンスという言葉はしばしばビジネスで使われる。しかし、「根拠がある」をかっこよく言い換えるために存在する言葉では無い。学術的にエビデンスとは、どのような意味だろうか。

エビデンスとは、厳密な因果関係

学会で使われる「エビデンス」とは、一般的に、「AがBに影響を与えた」という因果関係を表す。根拠や証拠という意味では使われていない。

影響を与えるAは独立変数、影響を与えられるBは従属変数と呼ばれる。

 

因果関係の中には、「信頼できる因果関係ランキング」のようなものがある。

ランダム化比較試験のシステマティック・レビュー>観察研究のシステマティック・レビュー>ランダム化比較試験>観察研究>専門家の意見>個人の経験則....と言った具合だ。さらに、調査期間が長いほど、種類が多いほど、ランダムに抽出されているほど、信頼される。

 

エビデンスがより広い意味で使われたり、狭い意味で使われたりすることもあるが、一般的には因果関係という理解で良いだろう。

 

エビデンスが無い=信頼できない」ではない

専門家が「エビデンスはありません」と言ったときに、必ずしも「根拠のない、意味のない、信頼できないこと」を意味しない。

なぜなら、厳密な因果関係を見つけるのは、至難の技だからだ。

例えば、消費増税をした後に景気が悪くなったとき、「消費増税が原因で、景気が悪くなった」という因果関係を示すのは非常に難しい。消費増税とは別に、世界経済が悪いから景気が悪くなったかもしれないし、企業の生産性が落ちたから景気が悪くなったかもしれないし、働かない高齢者が増えたから景気が悪くなったかもしれないし、物価が上がったから景気が悪くなったかもしれないからだ。

教育政策でも、大量の要因が考えられる。塾に通った生徒のテストの点数が高かったとき、それは塾のおかげかもしれないし、塾とは関係なく学校の授業を一生懸命聞いているからかもしれないし、塾に通わせてあげる親の下で育った子供はそもそも頭良い遺伝子が入ってただけかもしれないし、運でたまたま点数が高かったかもしれないのだ。

 

こうした複雑な背景から、専門家が「AがBに影響を与えた可能性もある。しかし、エビデンスはまだ無い。」と言わざるをえないこともある。

エビデンスが有る主張が無い主張より信頼できるのは確かだが、エビデンスが無い=信用に値しないと考えるのは早い。因果関係が発見しづらい環境もあるからだ。

 

エビデンスがあったとて、役に立つとは限らない

政治において難しいのは、信頼できるエビデンスがあったとしても、政策に役立つとは限らないことだ。

大阪大学の加納寛之らの論文によると、「質の高いエビデンスの生産・ 伝達が、効果的な政策形成に直接結びつかないことが多い。したがって、エビデンスの有効性や妥当性を評価する際には、エビデンスの運用が行われる社会・政治的文脈を視野に入れた観点も必要となる。」そうだ*1

 

加えて、政策決定者が認識する「エビデンス」の定義を統一する必要もある。

 

わざわざ英語で言いたがる人

そもそも、英語をカタカナ語として使用する必要があるのは、それが日本語とは異なるニュアンスがあるからだ。「根拠はありますか?」を「エビデンスはありますか?」と言うように、日本語で言えるところをわざわざ英語で言っている人がいたら、その人は

①日本語とは異なる細かなニュアンスを意識している人か、

②日本語より英語が先に出てしまう海外経験豊富な人か、

③なんとなく説得力を持たせるために英語でカッコつけている人のどれかだろう。

 

 

 

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*1:加納寛之・林岳彦・岸本充生(2020年)「BPMからEIPM環境政策におけるエビデンスの総合的評価の必要性―」、環境経済・政策研究、Vol. 13No. 1p. 79、https://www.jstage.jst.go.jp/article/reeps/13/1/13_77/_article/-char/ja/