通説以上、陰謀論未満

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「若者の〇〇離れ」は、根拠も、言う意味も無い

「若者の〇〇離れ」というフレーズをよく聞く。しかし、根拠が曖昧だったり、根拠が正しくてもそれが「悪いこと」であるかのように見せたり、良い傾向とは言えない。本記事では、「若者の〇〇離れ」を叫ぶ記事の一部が、根拠や言う意義が無い理由を説明する。

 

そもそも根拠がない

人気ブロガーの最終防衛ライン3さんは、過去と比較しない、若者の人口減少を考慮しない、他の年齢層の減少を無視する、印象で語ることを原因に、「若者のクレジットカード離れ」「若者の海外旅行離れ」「若者の車離れ」「若者のアルコール離れ」「若者の音楽離れ」「若者のタバコ離れ」のいずれも根拠がないことを示している。

lastline.hatenablog.com

「現在の若者が〇〇から離れた」という時は、過去の若者、そもそも若者全体が減っているために数だけでは比較できないこと、他の年齢層の増減を見ることで若者だけの現象かどうかを確認すること等を考慮しなければならない。考えてみれば当然のことだが、こうした考慮をせず「若者は〇〇から離れてしまった」と結論づけるメディアが多い。

詳細は、最終防衛ライン3さん↑の記事を参照いただきたい。

 

カリフォルニア大学のプロツコとスクーラーの研究によると、高齢者による「最近の若者は...」思考は、なんと紀元前624年から存在しているという*1。当論文によると、その「最近の若者は...」思考は、以下の二つの認知バイアスによってもたらされる

一つ目は、成長後の自分のスキルを、自分の若い頃からのスキルだと誤解するバイアスだ。例えば、ある高齢者の、現在の読書量が週に4冊、その高齢者が10代の頃の読書力が週に1冊だったとする。するとその高齢者は、「ワシが10代だった頃は、週に4冊も本を読んでいた。最近の若者は本を読まない。」と、現在の読書量に基づいて過去の記憶を改ざんする傾向にあるのだ。

二つ目は、自分の得意分野において、若者に厳しくなるバイアスだ。知的な高齢者は若者の知性が低いと考え、読書の多い高齢者は若者が読書をあまり楽しんでいないと考える傾向にあるという。

 

「お金の若者離れ」の可能性も

「若者の〇〇離れ」は実際、何が原因なのか。いくつかは「お金が無いだけ」という可能性も高い。アメリカと日本の例をそれぞれ紹介しよう。

 

アメリカで有名なジャーナリスト、デレク・トンプソン氏は、アメリカにおける「若者の車離れ」や「住宅離れ」について分析した*2。その結果、若者と他の年齢層では購買意欲に大差なく、お金が無い結果、車や住宅を買う余裕がないだけだという。

 

日本の若者においても、「お金の若者離れ」が考えられる。坂元晴香らの研究*3によると、確かに若者の恋愛離れは進んでいるが、収入や学歴が低い若者ほど、非正規雇用や無職の若者ほど、そもそも恋愛市場に参加していないという。恋愛しない傾向に対する良し悪しの判断は控えるが、経済的な要因で恋愛に興味を持たない可能性がある。

 

 

仮に「若者の〇〇離れ」の根拠が正しかったとしても、今度は「なぜそれを悪いことかのように書くのか?」「そもそも、それを言うことに社会的意義があるのか?」という問題が発生する。

 

 

離れることは「悪いこと」か?

一般的に、「若者の〇〇離れ」と聞くと、若者が自主的に離れていっているようなネガティブなニュアンスだ。しかし、「若者が〜をしなくなった」という事実は、必ずしもネガティブに解釈されるべきではない。人生で何を重視するかは人それぞれであるため、地元の友達とゲームばかりして恋愛しない若者を「ダメ」とは判断できない。1960年代以降のアメリカでは「若者含むアメリカ人の黒人差別離れ」が進んだが、明らかに良いことだ。

 

年上の世代が「若者の〇〇離れ」をネガティブに解釈したとしても、それは「若者が、年上世代が自分たちの若い頃を勝手に基準にして作り上げた若者像になっていない」だけかもしれない。最近の若者が年上世代の期待通りになっていないからといって、すぐに「悪い」と解釈してはいけない

 

つまり、「若者の〇〇離れ」というフレーズは「若者が〜をしなくなった」という単なる事実と 「若者が〜から離れてしまったよ😭」という書き手のネガティブな解釈が一緒くたになっているという点で、危険だ。

 

言う意味が無い

「若者の〇〇離れ」の根拠がしており、それがネガティブに解釈される場合であっても、次に「そもそも言う意味があるのか」という問いが残る。

 

「若者が〜から離れてしまっています。残念です。」と書くことで、社会をどう変えたいのか。それは解決可能な問題なのか。どんな解決策があるのか。

 

「日本が経済成長していない→よって手取りが低い→よって若者にお金がない→よって若者が車を買わない」という因果が成立しているならば、解決方法は「日本の経済成長」という大きな壁になる。こんなに解決が難しい複雑な問題を、「若者の車離れ」というタイトルを付けて、若者のせいにして良いものなのだろうか?

 

「若者の〇〇離れ」をアップデートせよ

以上を踏まえて、「若者の〇〇離れ」を以下のようにアップデートしよう。

「若者の〇〇離れ」と言うときは、

・過去の若者、そもそも若者全体が減っているために数だけでは比較できないこと、他の年齢層の増減を見ることで若者だけの現象かどうかを確認すること等を考慮し、

・若者が離れているという事実がネガティブに解釈されるケースにおいてのみ「若者の〇〇離れ」というフレーズを使い、

・「若者の〇〇離れ」という事で、社会にどんな影響を与えたいのか、解決可能な問題なのか、どんな解決策が考えられるか

を考えよう。

*1:John Protzko and Jonathan W. Schooler (2019) "Kids these days: Why the youth of today seem lacking", Sci. Adv.5, https://advances.sciencemag.org/content/5/10/eaav5916

*2:Derek Thompson (2018) "Millennials Didn’t Kill the Economy. The Economy Killed Millennials.", The Atlantic, https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2018/12/stop-blaming-millennials-killing-economy/577408/

*3:Ghaznavi C, Sakamoto H, Nomura S, Kubota A, Yoneoka D, et al. (2020) "The herbivore’s dilemma: Trends in and factors associated with heterosexual relationship status and interest in romantic relationships among young adults in Japan—Analysis of national surveys, 1987–2015." PLOS ONE 15(11): e0241571. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0241571