年金に詳しくない方は、しばしば「自分の若い頃に納めた保険料の分だけ、自分の年金になる」という勘違いをしている。しかし、実際は「今の若者が今のお年寄りに仕送りしている」というのが正しい理解だ。
「自分の若い頃に納めた保険料の分だけ、自分の年金になる」方式は積立方式と呼ばれ、仕送りタイプは賦課方式と呼ばれる。
厚生労働省は、「現在の日本の公的年金は、基本的に『賦課方式』で運営されており、現役世代が納めた保険料は、そのときの年金受給者への支払いにあてられています。」と説明しており、日本の年金が仕送りタイプであることがわかる*1。
厚生労働省の年金に関する説明は非常に分かりやすいため、詳細を知りたい方はリンク先を見ていただきたい。
賦課方式のメリット・デメリット
厚生労働省は、日本の年金が仕送りタイプであるメリットを「その時の現役世代の(給与からの)保険料を原資とするため、インフレや給与水準の変化に対応しやすい(価値が目減りしにくい)」、
デメリットを「現役世代と年金受給世代の比率が変わると(=少子化が進むと)、保険料負担の増加や年金の削減が必要となる」と説明している。
積立方式のメリット・デメリット
厚生労働省は、「自分の若い頃に納めた保険料の分だけ、自分の年金になる」方式のメリットを「民間保険と同様に、現役時代に積み立てた積立金を原資とすることにより、運用収入を活用できる」、
デメリットを「インフレによる価値の目減りや運用環境の悪化があると、積立金と運用収入の範囲内でしか給付できないため、年金の削減が必要となる」と説明している。
積立方式に変えるべきではない
かといって、日本の年金制度を積立方式に変えるべきとは思わない。理由は三つだ。
一つは、積立方式だと、貧富の差が出てしまうからだ。若い頃にお金を稼いだ人はその分たくさんの年金をもらい、稼げなかった人は年金が少額になる。「それでいいじゃん、若い頃の努力が報われてるんだから」と思う人がいるかもしれない。しかし、この考えは間違っている。なぜなら、年金の趣旨は、「頑張った人が報われるため」にあるのではなく、「誰にでもある『人生のリスク』に対応するため」にあるからだ*2。
厚生労働省は、以下のように説明している。
人生には、さまざまなリスクがあります。
高齢によって働くことができなくなる、思いがけない事故や病気で障害を負ってしまった、一家の大黒柱が亡くなってしまった……など、安定した収入を得られず生活できなくなるリスクは予測できません。そうした「もしものとき」に備えるため、生命保険や医療保険などに入る方や貯蓄をする方もいらっしゃいます。
でも、その備えが「いつ」「どれだけ」「いつまで」必要なのかは、誰にも分かりません。誰にでも起こり得ることなのに、すべての人が、あらゆる事態を予測して、十分に備えることは困難なのです。
こうした「人生のリスク」にすべての人が備えられるよう、公的年金は国が公的制度として運営しています。
二つめは、積立方式が「民間保険と同様」であるなら、そもそも国が運営する必然性が無くなるからだ。
三つめは、上記で説明したように、積立方式だとインフレによる価値の目減りに対応できないからだ。自分が若い頃に納めた10万円と、年金をもらう年齢になった時の10万円で、価値が異なってしまう。
以上三つの理由から、私は積立方式に変えるべきではないと考える。
もっとも、何も変えないわけにもいかない。現状の賦課方式は、少子高齢化によって現役世代の負担が増える仕組みだからだ。
現役世代の負担を減らす措置は必要かもしれない。
*1:厚生労働省「第05話 賦課方式と積立方式 いっしょに検証!公的年金」、https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/05.html
*2:厚生労働省「第02話 公的年金と貯蓄の違い いっしょに検証!公的年金」、https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/02.html