かつて子宮頸がんワクチン(以下「HPVワクチン」)は、「重い副反応が出るから打たないようにしよう」という誤った風潮が広まり、日本の接種率は著しく下がった。
HPVワクチンを打った後に神経症状が出ることはある。しかし、HPVワクチンを打った「から」神経症状が出たわけではない。あなたが外出した直後にたまたま雨が降ったのであり、外出した「から」雨が降ったわけではない。この因果の違いが分からない人が、「HPVワクチンは副反応が出るから危ない」という陰謀論に陥る。
本記事では、HPVワクチンの概要、安全性を示す論文、そしてHPVワクチンを普及させるために私たちができることを述べる。
HPVワクチンとは
HPVワクチンは、子宮頸がんを起こしやすいHPV16型と18型の感染を防ぐことができる。接種することで、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぐ。
詳細は、
HPVプロジェクトを推進する「みんパピ」さんの説明*2、
アメリカ疾病予防管理センターの説明*3、
を参考にしてほしい。
重要事項をざっくり抜き出すと、以下の通りだ。
・子宮頸がんで毎年約2800人も亡くなっている
・男性もかかる:HPVは、陰茎がんや肛門がんの原因になりうる
・HPVワクチンを打った後も、2年ごとに検診を受けるべき
・検診とワクチン接種を行うと20年ほどで撲滅できる
・副反応のデマにより、日本の接種率は、他の先進国より低い。
・したがって、小6から高1の女子だけでなく、男女・年齢問わず、無料かつ原則の定期接種にすべき
大量の論文「HPVワクチンは安全」
HPVワクチンの安全性は、多くの論文によって示されている。
「ワクチンを摂取した人としてない人で、『副反応』の発症割合は同じだった。つまり、HPVワクチンを打ったせいで重篤な副反応が出るわけではない」ことを示す論文*5、「HPVワクチンが原因で、複合性局所疼痛症候群や体位性頻脈症候群といった自律神経障害を引き起こすことはない」ことを示す論文*6、「HPVワクチンの害を訴えた論文は、調査方法が不適切である」であることを示す論文*7などは、その代表例である。
WHOは、こうした数々の研究を踏まえ、HPVワクチンを「極めて安全」と説明している*8。
学術雑誌に投稿された論文は、その統計的手法や方法などが専門家からチェックされる(査読)。HPVワクチンが原因で副反応が起きていると思うなら、それを示した論文を有名な学術雑誌に投稿すれば良い。しかし、反HPVワクチン論者はそうしない。他の研究者からチェックされる学術的な場所には行かずに、仲間だけを集めてシンポジウムやセミナーを開き、Twitterで訴えるだけだ。仮に学術雑誌に投稿したとしても、そうした論文は門前払いにされたり(rejected)、論文が撤回されたり(retracted)している。
反HPVワクチン論者の名前をGoogle Scholarで検索し、彼らの論文の被引用数を見れば、彼らの学術的な評価が分かる(そもそもGoogle Scholarで出てこないかもしれない)。
かといって、反HPVワクチン論者とバトルしたところで何も解決しない。
それでは、HPVワクチンを普及させるために、私達ができることは何だろうか。
HPVワクチンを広めるために私達ができること
①HPVワクチンを広める活動に寄付する
HPVワクチンの普及に努める団体はいくつかある。そのクラウドファンディング等に寄付しよう。
私はかつて、HPVワクチンの普及を目的とするクラウドファンディングに寄付した。
Vcanという団体にて、寄付ができる。自分のできる範囲で、寄付しよう。
②SNS等を通じて、知り合いの若者にHPVワクチンの存在を知らせよう
子宮頸がんは、20〜40代の人が罹りやすい。そのため、26歳までにHPVワクチンを接種することが推奨されている。若者にHPVワクチンの存在を知ってもらうために、HPVプロジェクトを推進する活動をシェアしよう。
例えば、HPVプロジェクトを推進する「みんパピ」のInstagramの投稿をストーリーズ等でシェアするだけでも、ちょっとした普及に繋がるだろう。
https://www.instagram.com/minpapihpv/
③反HPVワクチンの政治家に投票しない
多くの学術論文でHPVワクチンの安全性が統計的に示されているにも関わらず、主観や個別事例を優先したり、因果関係が分からなかったりすることで、HPVワクチンに反対する政治家がいる。
選挙の前に、Google検索で「"政治家の名前" "HPVワクチン"」と検索し、HPVワクチンに懐疑的なら、投票しないようにしよう。個人名を言及することは控えるが、実際にそういう政治家は何人かいる。
学術論文に基づく科学より、主観を優先する時点で、反HPVワクチンの政治家は全く信用に値しない。彼らは、他の政策に関しても、事実より感想を優先する危険性がある。
④この記事をシェアしよう
手前味噌だが、この記事もシェアして欲しい。
ざっくりHPVワクチンについて知るスタートラインとしては、良い(と信じたい)。
本記事は一般向けのため、複雑な説明を避けた。より正確かつ専門的な説明は、厚生労働省や「みんパピ」さんのHPを参考にしてほしい。以下の脚注から見ることができる。
*1:厚生労働省、https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html
*2:「みんパピ」、https://minpapi.jp/
*3:アメリカ疾病予防管理センター、https://www.cdc.gov/vaccinesafety/vaccines/hpv/hpv-safety-faqs.html#A1
*4:米国国立がん研究所の日本語字幕付き動画、https://youtu.be/HfVYtc2-PJs
*5:Suzuki S, Hosono A. (2018) "No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study", Papillomavirus Res. 96-103. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29481964/
*6:The European Medicines Agency (2015). “Review concludes evidence does not support that HPV vaccines cause CRPS or POTS.” European Medicines Agency Press release. https://www.ema.europa.eu/en/news/review-concludes-evidence-does-not-support-hpv-vaccines-cause-crps-pots
*7:Aratani, S., Fujita, H., Kuroiwa, Y. et al. (2018) "Retraction Note: Murine hypothalamic destruction with vascular cell apoptosis subsequent to combined administration of human papilloma virus vaccine and pertussis toxin", Sci Rep 8, 46971 .https://www.nature.com/articles/srep46971
*8:WHO、https://www.who.int/groups/global-advisory-committee-on-vaccine-safety/topics/human-papillomavirus-vaccines/safety