通説以上、陰謀論未満

他のブログと異なる点:論文や学術本を根拠に示しているため、より信頼度の高い情報を提供いたします。

国債の格付けはやっぱり大事

政府は、消費増税をすることで財政健全化に近づく努力を金融機関やマーケットにアピールし、国債の格付け維持を試みている。では、なぜ国債の格付けは大事なのか。その理由を解説する。

前回の記事*1では、「政府に『なんでも本音で話せ』と考える人がいるが、建前と本音の使い分けは非常に重要だ」ということを説明する例として、増税の例を挙げた。今回は、そこで述べた国債の格付けについて解説する。

「間接的に国債を買う」という延命策が切れるから

財政法第5条により、日銀は、日本政府が発行した国債を直接引き受けることを禁じられている。制限無く大量のお金を刷った結果、悪性のインフレになった歴史があるためだ。そこで日銀は、「民間銀行等の金融機関に国債を一時的に購入してもらい、その後すぐに日銀が買い取る」という形で、間接的に国債を買っている*2。日本は、この仕組みで国債発行をすることで、不安定な財政状態を何とか延命している。

上記の「民間銀行等の金融機関に国債を一時的に購入してもらい」の部分に注目して欲しい。金融機関は、信用ある国債を購入できるが、信用のない国債を購入できない。すなわち、国債が信用のないものとみなされた場合、各金融機関は信用のない国債を買わないため、「日銀が間接的に国債を引き受ける」という延命策が維持できなくなる。

この「信用があるかないか」を決めるのが、格付け会社による国債の格付けだ。AAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、C、D...と、アルファベットとその数で評価されることが多い。日本国債は、かつてAAA(トリプルエー)として最も信頼される格付けだったが、現在はA付近まで下がっている。膨大な社会保障費と政府債務の多い日本において、この格付けは今後も下がる見通しだ*3

ほとんどの金融機関は、「信用のない国債」の基準をBB以下に設定している。すなわち、このまま日本国債の格付けがBB以下まで下がると、「民間銀行等の金融機関に国債を一時的に購入してもら」うことがそもそもできないため、日銀が間接的に国債を買えなくなる。

 

要約すると、以下の通りだ。

日本は国債を発行することで、なんとか経済を延命させている。しかし、日銀が直接国債を引き受けることは法で禁じられている。加えて、「民間の金融機関に一度買ってもらって、間接的に引き受ける」現在のルーティーンも、格付けが低いと各金融機関が買わないため、維持できない。だから、国債の格付けを気にする必要があるのだ。

 

実際、麻生元財務大臣は、消費増税の延期に対して次のように漏らしている。

「(消費増税を)さらに延ばしたら、国債の格付けが下がるくらいのことは覚悟をしておいてもらわないといかん。この消費増税は必要なものだと思っております」*4

 

格付け会社の予想は当たらない」は間違い

「格付けなんて気にするな。格付け良かったのにリーマン・ショックが起きたから、格付け会社の予想なんてインチキだ。」という人もいるが、間違いだ。私たちや政府や日銀が格付けを気にする云々の話では無く、民間銀行等の金融機関に国債を一時的に購入してもらう際、金融機関が「国債の格付けがBB以下なら買えません(or量を減らします)」と決めているからだ*5我々がいくら「格付けなんか気にするな」と言おうが、金融機関側のルールで決められているため、格付けを気にせざるを得ないのだ。

「金融機関って具体的にどこ?」と思う方もいるかもしれない。その時は、国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー)」を参考にすると良い。日本政府は、外資を含む金融機関に「財務省との会合に参加できる代わりに、国債を一定量買ってもらうよ」という資格を付与している。この金融機関は国債市場特別参加者」と呼ばれており、ゴールドマン・サックスクレディ・スイスJPモルガン野村証券など20社の金融機関が参加している*6三菱UFJ銀行は2016年、UBS証券は2021年に、「こんな危ない国債引き受けられないです」と言わんばかりに、その資格を返上している*7

 

ちなみに、国債の格付けが下がることは、政府の資金調達だけではなく民間企業にもしわ寄せが来る。具体的には、日本国債保有する民間銀行などの外貨調達コストが上がり、民間企業や個人にお金をなかなか貸さなくなったり(貸し渋り)、返済を前倒しさせたり(貸し剥がし)する。

 

国債の格付けは、やっぱり大事だ。

 

 

 

*1:https://happa-shuzo.hatenablog.com/entry/2023/02/07/213414

*2:難しく言うと「日銀は、プライマリーではなくセカンダリーから買っている」という表現になる。国債入札の仕組みはこちらの日経新聞の記事が参考になる。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB051WW0V00C23A1000000/

*3:「日本の借金など気にしなくて良い」という考えがネットの俗流経済学に多いが、これは経済学の中では少数派だ。Youtube等で経済を勉強するとその割合が多いように錯覚するが、経済学の論文や教科書を読むと、この考えがいかに異端であるとわかるだろう。詳細は後に当ブログで説明するかもしれないが、経済学を勉強したい方は、ネットではなく経済学の教科書や論文を参照してほしい。

*4:テレ朝ニュース(2019年)「消費増税巡り麻生大臣『延期なら国債の格下げも』」、https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000156150.html

*5:金融庁/日本銀行(2018年)「バーゼルⅢの最終化について」、https://www.fsa.go.jp/inter/bis/20171208-1/02.pdf

*6:財務省(2021年)「国債市場特別参加制度 国債市場特別参加者https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/210526.pdf

*7:日本経済新聞(2021年)「UBS証券国債入札資格を返上へ」、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB308SX0Q1A430C2000000/