「トレンドの服を着て流行りに乗りたい」「勝ちそうなところに味方して、自分も利益を得たい」。そうした行為は、日本語で「勝ち馬に乗る」、英語では「バンドワゴンに乗る」と表現される(以下「バンドワゴン効果」)。バンドワゴン効果は、ブランド品、選挙、投資で多く観察されるものだ。
1950年頃、アメリカの経済学者ライベンシュタインらが、消費の分野におけるバンドワゴン効果を提唱した。バンドワゴン効果とは、「みんながタピオカを買っているから、私もタピオカを買いたい」といった勝ち馬に乗る現象だ。
バンドワゴン効果については、政治学をはじめ、アパレル、観光、オンライン小売、消費財におけるマーケティングや販売戦略を中心に様々な研究が行われてきた*1。
ブランド品におけるバンドワゴン効果
とりわけ高級ブランドは、持つことでステータスになりやすいことから、「早く買わないと、皆が楽しんでるこのトレンドに取り残されちゃうかも」という気持ち(FoMO, Fear of Missing Out)を促進し、バンドワゴン効果を発生させるという*2。
自民党総裁選におけるバンドワゴン効果
自民党総裁選でも同じだ。自民党議員は、総裁になりそうな強い人を支持する。実際にその人が総裁に決まった後、その新総裁から「私を支持してくれてありがとね」と、良い役職を与えてくれるからだ。
各派の方針が定まらないのは、菅首相の不出馬で情勢が混沌とする総裁選で、「勝ち馬」の見極めが困難になっているためだ。主流派となれば、新総裁による人事での論功行賞が見込める*3。
投資におけるバンドワゴン効果
投資におけるバブルも同じだ。
多くの投資家が上がりそうな企業や資産に投資することで、さらに価格が上がる。
1990年代後半のドットコムバブルでは、「.com」というITっぽいだけの新興企業が何十社も出現した。こうした企業は、実行可能な事業計画や市場に投入できる製品やサービスが無いにも関わらず、バンドワゴン効果により、何百万ドルもの投資資金を集めた*4。
最近流行りの「Web3.0」も同様だ。インターネットの進化を2000年代半ばに「Web2.0」と定義したネット界の論客ティム・オライリーは、以下のように話す*5。
オライリー氏は「現在のウェブ3.0は(2000年の)『ドットコムバブル』に非常によく似ている。ウェブ3.0がウェブ2.0に匹敵するとは思えない。技術革命というよりはマーケティング革命のように見える」と述べた。
その理由として「暗号資産を高騰させ、その資産で他の暗号資産を膨れ上がらせている。これは現実の経済ではない。多くの投資は失敗すると思う。機能していない技術の問題に集中し、顧客の問題を解決することに焦点を合わせていない。資金が殺到するのが速すぎて、活用事例を把握できていない」と批判した。
投資する際に環境、社会、ガバナンスの課題を考慮するという「ESG投資(日本独自の用語)」においても、同様のバブルが起きている。
市場で「いち早く脱炭素に動いている」と受け止められれば、勝ち馬に乗ろうとする買い注文で株価は上がり、資金調達がしやすくなる*6。
要するに、「ITだから伸びるよ」「Web3.0だから伸びるよ」「環境に優しいから伸びるよ」といったマーケティングがバンドワゴンを引き起こし、バブルに繋がるのだろう。
経済学者のケインズは「株式投資は美人投票のようなものだ」と言いました。単に自分の好みの人に投票するのではなく、最も多く得票した人に投票した者が賞金をもらえるとした場合、投票者の思惑の読み合いが始まります。もし批評家が「この人が美人」と言ったとすると、みんなは批評家の意見通りの人に投票するかもしれないと考えます。株式投資でも、単に企業の利益を予想して株価が決まるだけではなく、どの株が人気なのかという情報により、株価が高くなるという動きが出てくるのです*7。
金融規制におけるバンドワゴン効果
金融危機が起きた際、中央銀行は金融における監督を強める。そうした金融監督制度においても、バンドワゴン効果が見られる。
他国が金融監督制度を再編する時期に、自国でより多くの改革が実施されるという*8。
このように、流行やみんなが好きそうなものに乗っかって自分も利益を得ようとする現象は、さまざまな業界で観察される。
ただ、汎用性の高い現象だからこそ気を付けて使う必要がある。選挙で「バンドワゴン効果があった」と思えたものも、実は国民にとって情報量の多い現職が勝っているだけかもしれない(incumbency advantage)。前述したケインズの美人投票においても、必ずしも投資家がそのような動きをするとは限らない*9。
*1:Sunali Bindra, Deepika Sharma, Nakul Parameswar, Sanjay Dhir, Justin Paul (2022) ”Bandwagon effect revisited: A systematic review to develop future research agenda”, Journal of Business Research, Volume 143, pp. 305-317, https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0148296322000972
*2:Kang, Inwon and Ilhwan Ma. (2020) “A Study on Bandwagon Consumption Behavior Based on Fear of Missing Out and Product Characteristics.”, Sustainability 12, https://www.semanticscholar.org/paper/A-Study-on-Bandwagon-Consumption-Behavior-Based-on-Kang-Ma/d4d8e8326ae75128270869de3367b42adc0b17e4
*3:読売新聞オンライン(2021年)「最大派閥・細田派、支持候補分裂の気配…『勝ち馬』の見極め困難」https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210909-OYT1T50299/
*4:The Investopedia Team (2023) "What Is the Bandwagon Effect? Why People Follow the Crowd", Investopedia, https://www.investopedia.com/terms/b/bandwagon-effect.asp
*5:日本経済新聞(2022年)「『ネットの分断、現実に』 Web2.0提唱のオライリー氏」、「ネットの分断、現実に」 Web2.0提唱のオライリー氏:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC236I90T20C22A3000000/
*6:日本経済新聞(2022年)「売れば完了、庭先だけ脱炭素 ESGマネーが圧力」、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD27AC90X21C21A2000000/
*7:東京都立大学「東京都立大学の『学び』を体験! ― 荒戸 寛樹」https://www.tmu.ac.jp/hot_topics/tmunavi/management/biz_econ/30457.html
*8:Donato Masciandaro, Davide Romelli (2008) "Central bankers as supervisors: Do crises matter?", European Journal of Political Economy, Volume 52, p. 120-140
*9:Franklin Allen and others (2006) "Beauty Contests and Iterated Expectations in Asset Markets", The Review of Financial Studies, Volume 19, Issue 3, p. 719–752, https://doi.org/10.1093/rfs/hhj036