通説以上、陰謀論未満

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【イスラエル・パレスチナの紛争】を学びたい人のための、おすすめコンテンツ4選

2023年10月7日現在、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに向けて多数のロケット弾を発射した。イスラエルのネタニヤフ首相は「われわれは戦争状態にある」と声明を出した。

これを機に、イスラエルパレスチナの紛争について学びたい、という人のためのコンテンツを4つ紹介する。加えて、こうしたコンテンツを探す際の注意点も述べる。

 

おすすめ①地経学研究所長 鈴木一人の解説

鈴木教授は、ハマスイスラエルを攻撃した理由を、

イスラエルが、宗教的なお休みの時期で油断していたから 

イスラエル国内が分断しているが故に国内問題に注目しており、ハマスにちゃんと目を向けていなかったから 

イスラエルサウジアラビアが国交回復に動いており、パレスチナが「置いてきぼりにされるのでは無いか」と焦ったから

と要約している。

www.youtube.com

 

おすすめ②現代中東政治の研究 臼杵陽の記事

イスラエルパレスチナ問題について簡潔に解説している、初心者向けの記事。

synodos.jp

臼杵氏は、イスラエルパレスチナ問題とは何かについて、以下のように説明している。

基本的には東地中海地域に位置するパレスチナと呼ばれる同じ土地の領有をめぐるユダヤ人とアラブ人の争いです。

1948年5月にイスラエルというユダヤ人国家が建設され、その結果、それまでパレスチナに住んでいたアラブ人(のちにパレスチナ人と呼ばれるようになります)の多くが難民となってしまいました。難民となったパレスチナ人たちが、自分たちの国家をユダヤ人に奪われたパレスチナの地に建設するためにパレスチナ解放運動を開始し、その解放運動がPLOパレスチナ解放機構)という政治組織(将来のパレスチナ国家に相当します)を中心に展開されました。したがって、イスラエル国家とPLOとの争いがイスラエルパレスチナ問題となっていったのです。

この問題はしばしば「二千年来のユダヤ人とアラブ人の対立」だとか、あるいは「ユダヤ教イスラームの宗教的対立」だから解決が難しいといったようにマスメディアなどで説明されることがあります。しかし、そのような説明の仕方は問題の一面に光を当てただけで、正確な理解とはいえません。二千年前には現在のような民族意識をもったユダヤ人もアラブ人も存在していないからです。

ナショナリズム民族主義)は、近代ヨーロッパの産物であり、ナショナリズムの特長として、民族の起源とその形成を遠い過去にまでさかのぼって説明し、現在の民族国家の存在の正当性を強化する役割を果たしていることがあげられます。そのためナショナリズムは、過去の事実を選択的に取り上げて再構成し、あるいは場合によっては過去を新たに作り出すイデオロギーであることも思い起こす必要があります。だからこそ、「有史以来連綿として続く」民族のために生命を投げ打って捧げるなどという人も登場することになるのです。

もちろん、かつてパレスチナという地に古代ユダヤ国家があったことは歴史的事実です。また旧約聖書創世記でも神が「約束の地」をアブラハムとその子孫に与えると書かれており、それを信じているユダヤ人も数多くいます。しかし、そのような信仰レベルの問題が、パレスチナという土地は誰のものかという領土の領有をめぐる争いに変わるのは近代に入ってからです。つまり、フランス革命以降に広がった、一民族に一国家を創設する、というナショナリズム民族主義国民主義)に基づく国民国家=民族国家(nation-state)という民族レベルでの排他的な考え方や運動が強い影響を与えたのです。ヨーロッパのユダヤ人も19世紀末になって、次の述べるような「シオニズム」というユダヤ人のためのナショナリズム運動を開始して自分たちのユダヤ人国家を作ろうと試みるようになったのです。

ところが、パレスチナ第一次世界大戦まで数世紀にわたってオスマン帝国というイスラーム国家の統治下にあり、この地域に住んでいた圧倒的多数派の人びとはアラビア語をしゃべるイスラーム教徒(ムスリム)だったのです。ヨーロッパに住んでいて迫害されていたユダヤ人がパレスチナユダヤ人国家を作ろうとすれば、必然的にそこに住んでいたアラブ人を追い出さざるを得ませんでした。そして前述のとおり、1948年5月にイスラエル国家が設立されると、パレスチナに住んでいたアラブ人は難民となってしまいました。

 

おすすめ③歴史社会学の研究 鶴見太郎の書籍『イスラエルの起源』

膨大な史料分析に基づき、19世紀のロシア・ユダヤ人の視点から、イスラエルを読み解く。すぐ買う気になれない方は、こちらの書評や、鶴見氏のインタビュー動画をおすすめする。

www.c.u-tokyo.ac.jp


www.u-tokyo.ac.jp

www.youtube.com

 

おすすめ④パレスチナ/イスラエル研究会 HP

パレスチナ/イスラエルの研究者が集まった、研究会のサイトだ。こちらの関連資料やリンク集から、勉強のきっかけになる資料が見つかるだろう。

plekn.aa-ken.jp

 

最後に、以下2点の注意点を述べる。

 

注意点①:本屋に行かない

大学院生以上の情報リテラシーがない限り、街の本屋でイスラエルパレスチナの紛争を学ぶのは危険だ。理由は以前記事で述べた通りだが、ざっくり要約すると、教科書や論文と比較して、根拠が曖昧である可能性が高いからだ。

happa-shuzo.hatenablog.com

本記事で紹介した学者のコンテンツか、教科書を読もう

 

注意点②「10分で分かる」動画や「面白いストーリー」を避けよう

こちらも以前記事にまとめた通りだが、真実は複雑だ。

happa-shuzo.hatenablog.com

イスラエルパレスチナの問題に限らないが、紛争に関する多くの要因を考慮すると、結論は「Aかもしれないし、Bかもしれないし、Cかもしれないし、、、」とつまらないものになる

東京大学を卒業した学者が何年も頭を悩ませる問題を、一般市民が「10分でわかる」わけないのだ。仮に動画視聴後に「なるほど!面白い!」という気持ちを持ったとしても、それは「わかった」のではなく、「複雑な事実を省いて、単純化した要約を聞かされた」に過ぎない。

エンタメとして知りたいだけなら問題無いが、本気で細かく知りたい方は、論文や学術本を読むと良い。

 

まとめ

即席で書いた記事だが、総じて言いたかったのはSNSや本屋から自己流で学ぶのではなく、学者を頼ろう」ということだ。

本記事で紹介した教授以外にも、中東研究者はたくさんいらっしゃる。ぜひ彼らのコンテンツを優先して、チェックして欲しい。

 

第三次世界大戦になる!」という面白いストーリーや「10分でわかる」解説シリーズに惑わされず、なるべく「つまらなくて、複雑で、難しいコンテンツ」を読もう。

 

 

 

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