通説以上、陰謀論未満

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脱炭素が嫌いな人も、脱炭素をすべき理由

地球温暖化を止めるために脱炭素を主張する人も、脱炭素なんて不可能だと反対する人も、手を組めるところがある。それは、今まで通り金稼ぎをして、今まで通り安全保障を維持するために、脱炭素をするという目的だ。

脱炭素すればお金が稼げる

言い方が乱暴だが、欧米の金融業界を中心としたビジネスの流れから、これは自明だ。

ESG投資やSDGsの話をすると、「資本主義から脱成長へ」というイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、ESG投資やSDGsの兆候は、「資本主義的なお金稼ぎが終わり、世界が平等になる」という話ではない

ESG投資やSDGsは、「金稼ぎという企業の目標は変えず、資本を再投資する際に社会的な制約をつけることで、環境や社会に悪影響を与えない」ことが本質だ。

ESG投資は、2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」の中で提唱されることで本格的に始まった、企業に投資する際の原則だ。日本では、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名したことで、よりESG投資が推進された。その後、欧州の金融業界を中心に、環境や社会に悪い事業をしている(と評価された)企業が淘汰される仕組みが整備されている。

 

すなわち、社会的に良い(と評価された)企業が、資本主義の中で優先して投資されるという仕組みだ。

「弊社は脱炭素を推進しています」と広報することで、長期的に成長できる企業として高いESG評価を受け、優先的に投資され、利益を上げることができる。

 

脱炭素をすれば安全保障で有利になる

日本のエネルギー自給率は約12%と、OECD諸国でも非常に低い水準だ*1。これは日本がだらしないのではなく地理的な要因が大きい*2のだが、いずれにせよ、海外に頼らずに自給自足する必要がある。なぜなら、エネルギーを海外に頼りすぎると、安全保障で不利になる可能性があるからだ。

第二次世界大戦のとき、日本は石油の8割をアメリカに依存していた。しかし、1941年8月にアメリカが日本に石油を禁輸したことで、日本は資源のために戦争を仕掛けざるを得なかった*3

今日においても、ウクライナに侵攻をしたロシアからエネルギーを貰うのはいかがなものかと、各国がロシアからのエネルギー依存脱却を図っている。

 

上記のように、エネルギーの海外依存と安全保障は、密接に関わっている。

再エネ電力を増やしたり電気自動車を増やしたりすることで石油の中東依存を減らすことできるため、日本のエネルギー安全保障の維持に貢献するだろう。

 

脱炭素が嫌いでも、口に出すべきではない

脱炭素に嫌悪感を持つ人は、例えば以下のように主張する。

「シミュレーションを科学に含めて、温暖化が人災だと言うのはいかがなものか」

「日本は世界の二酸化炭素排出量の3%しか出してないから*4、日本だけが脱炭素したところで、地球は何も変わらない」

「中国に口出せないから地球温暖化を止めるのは不可能だ」

「人類が消滅たところで、何が問題なのか。立派な科学の帰結じゃないか」

「今のESG評価はザルすぎて、環境のためでもなんでもない。マクドナルドの温室効果ガスは増えてるのにESG評価が上がっているじゃないか。株主や金融機関が儲けてるだけじゃないか*5

などなど。

 

表では脱炭素ビジネスを謳っているのに、自身のYoutubeや本では「実は人が温暖化させてることには懐疑的で、、、」とこっそり言っている人も、しばしば見かける。

 

しかし、仮に上記の主張が正しかったとしても、それを口に出すべきではない。というのも、脱炭素を目指す大きな流れは、ビジネス的にも安全保障的にも止まらないため、「脱炭素なんてしたくない」と表で言ったところで社会から排除されるだけだからだ。

脱炭素に嫌悪感を持つ人は、心の中で「金儲けになるな、安全保障のためになるな」と思いながら、人前では「地球温暖化を止めるために脱炭素しましょう」と口に出すのが最適解だろう。

 

地球温暖化を止めるために脱炭素をしたい人も、金儲けや安全保障のために脱炭素をしたい人も、同じ「脱炭素」というゴールに向かって手を繋ごうではないか。

 

 

※ちなみに私は、脱炭素で地球温暖化がきっと止まると心から信じている。私がアンチ脱炭素の当事者ではなく脱炭素ファンであることを、最後に強調しておきたい。

*1:経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2020年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」、https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2020/001/

*2:日本は、北海ほど風が吹かない。加えて、陸続きの欧州のように、自国で余った再エネ電力を他国に渡せない。

*3:児島襄(1965年)『太平洋戦争』、中公新書

*4:全国地球温暖化防止活動センター「世界の二酸化炭素排出量(2019年)」https://www.jccca.org/download/66920

*5:Hans Taparia (2022) "One of the Hottest Trends in the World of Investing Is a Sham", The New York Times, https://www.nytimes.com/2022/09/29/opinion/esg-investing-responsibility.html