デート術やプレゼン術において、「話す内容より話し方が大事」と語られることは多いだろう。それ自体は問題ないのだが、楽して説得力を持たせるために、メラビアンの法則を雑に引用する人が多い。結論から言うと、「話す内容より話し方が大事」の根拠にメラビアンの法則を使うべきではない。
メラビアンの法則は、「話す内容より、視覚や聴覚といった話し方が大事であることが示された実験」として、誤って引用されることが多い。
メラビアンの法則の細かな理解は、『天使と悪魔のビジネス用語辞典』を始め*1、多くの記事で説明されている。詳細を知りたい方は、「メラビアンの法則 誤解」と検索していただきたい。
そうした記事の指摘を要約すると、
「視覚・聴覚・言語で矛盾した情報が与えられた際に、非言語である視覚や聴覚を優先しがち」という内容だ。
例えば、目を逸らしながら「私たちって友達だよね」と好意的な発言をしたとしよう。そうすると、聞き手は「私たちは友達である」という言語より、「目を逸らした(から友達ではないかも)」という視覚を優先する。
すなわち、非言語が重要であることを示した法則ではなく、視覚・聴覚・言語が矛盾しているかどうかが肝なのだ。
加えて、この法則を示したメラビアンは、自身のウェブサイトで「これら式は、感情や好き嫌いのコミュニケーションを扱った実験から導き出されたものだ。話し手が自分の感情や好き嫌いについて話していない限り、これらの式は適用できない。(拙訳)」と注意喚起している*2。
もちろん、プレゼンや面接において、目線やボディーランゲージを使うことは効果的だ。しかし、それを説明するために学問を雑に引用すると、「根拠を丁寧に確かめることなく、楽して説得力を持たせるために学問を雑に引用する人」であることがバレてしまうため、注意しなければならない。
*1:平野喜久(2002年)「74【メラビアンの法則】 the rule of Mehrabian」、『天使と悪魔のビジネス用語辞典』より、http://www2u.biglobe.ne.jp/~hiraki/d74.htm
*2:Albert Mehrabian "Silent Messages -- A Wealth of Information About Nonverbal Communication (Body Language)", http://www.kaaj.com/psych/smorder.html