通説以上、陰謀論未満

他のブログと異なる点:論文や学術本を根拠に示しているため、より信頼度の高い情報を提供いたします。

中国とロシアって仲良いの?悪いの?

A. どちらでもない、微妙な距離感 である。

仲良い側面と仲悪い側面に分けて、それぞれ二つずつ例を出そう。

仲良いところ

中国はロシアにとって最大の貿易相手であるため、経済的に仲良くせざるをえない

中国の安全保障を研究するアンドリュー・スーコベルらによると、ロシアーウクライナ戦争下において、中国は貿易を通じてロシアに経済的な支援をしているという*1。中国は本格的な軍事支援を避けるものの、ロシアからのエネルギー輸入等を通じて、経済的に支援している。

 

加えて、ロシアは中国を「主権国家」として認めている。主権国家認定なんて、先進国だから当たり前では?と思うかもしれないが、ロシア独自の「主権国家」は、皆が想像するものとは少し異なる。ロシアの軍事思想を専門とする小泉悠氏によると、ロシア独自の解釈に基づく「主権国家」は、自己決定を行い、自国で安全保障を全うできる軍事的な列強を指すという*2。そのため、旧ソ連国、アメリカに依存する日本、NATOに依存するヨーロッパ各国を「主権国家」と見なしていない。一方で、インドやロシア自身、中国を「主権国家」と見なしている。中国から経済的な支援を受けるだけでなく、「主権国家」として認めている点がうかがえる。

 

仲悪いところ

一方で、中国とロシアがいがみ合う場面もある。

2009年、当時のロシア陸軍であったスココフ参謀長が中国の軍隊を「非合法集団武装集団」と呼び、軍事的に衝突するかもしれない敵(「仮想敵」)と見なした*3

 

加えて、中国とロシアは、ともに接する中央アジア諸国を巡って、互いに様子を伺っている。中央アジアにおける両国のプレゼンスを分析した笹川平和財団 齋藤竜太氏の論考によると、「中央アジアにおける中国のプレゼンス拡大に対し、ロシアは決して無警戒というわけではない」という*4

 

微妙な距離感

上記のように、中国とロシアは、日本やアメリカに対して一緒にプレッシャーをかけたりする一方で、いがみ合う瞬間もあり、「微妙な距離感」だ。

 

中国とロシアの安全保障に関するより詳細な分析は、私より大学研究者やシンクタンク研究員の論考を参考にしてほしい。しかし、本記事では少なくとも「中国とロシアは超仲良しでも喧嘩するわけでもない微妙な距離感であり、彼らの関係は複雑すぎて数本のYoutube動画で理解できるようなものではない」ことを知っていただきたい

*1:Andrew Scobell and Niklas Swanström(2022) "The China-Russia ‘Alliance’: Double the Danger or Limited Partnership?", United States Institute of Peace, https://www.usip.org/publications/2022/12/china-russia-alliance-double-danger-or-limited-partnership

*2:小泉悠(2019)『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』、東京堂出版

*3:小泉悠(2018年)「中露の軍事関係と東アジアの安全保障」、オピニオン、SYNODOS、https://synodos.jp/opinion/international/21683/

*4:齋藤竜太(2021年)「中央アジアにおける中国とロシアのプレゼンス 両大国がせめぎあう中、日本・西側はいかに関与すべきか」、笹川平和財団https://www.spf.org/iina/articles/saito_01.html?fbclid=IwAR0SdrXT48iG3uuSmbX6UZXWx_N1wC55Jm0zvuqOJBu67MkUhh-G3wTBweo