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「政治家は、答弁で紙ばっか読まずにアドリブで話してよ!」←無理

国会答弁を見て「政治家は、紙ばっかり読まずにアドリブで話してよ!」という人がいるが、それは難しい。

国会答弁では、アドリブで話せない

国会議員が質問をして、大臣が紙を読みながら答えている様子をニュースで見たことがあるだろうか。これに対し、「なぜその場で考えて答えないのか」と憤る人もいるだろう。しかし、それは難しい。なぜなら、大臣は省庁という組織全体を背負って話しているからだ。

 

会社勤めの方にとっては、しっくりくる話だろう。

社長が決算説明会等で、社内で合意を得ていないことをアドリブで言った場合、株価が大暴落するかもしれない。すなわち、組織を背負って話す人と、そうでないテレビのコメンテーター等では、話せる範囲が全く異なるのだ。

 

こう説明されると「当たり前だよね」と納得する人は多いだろうが、ニュースで見る政治家の国会答弁を見ると、どうしても「紙ばっか読み上げずにアドリブで対応してよ」と言いたくなってしまう。

 

国会議員は、質問主意書を通して内閣に質問することができる。その質問を受け取った省庁は、答弁の文章を自分たちで考えた後、「法の番人」である内閣法制局に審査され、さらに内閣が全員OKを出して(閣議決定)、初めて答案が提出される*1。つまり、答弁をする大臣は後ろに多くの組織を背負っているため、紙を見て慎重に答えざるを得ない。組織内で合意もしていないことを、アドリブで言うことはできない。

 

この現象は、他の政治家も同じだ。政治家が国際会議で「平和が大事です」と普通のことを並べたとしても、我々は安易に怒ってはならない。たった一言の失言が、他国を刺激してしまうかもしれないからだ。

 

アドリブの聞く口達者なコメンテーターを見て、安易に「この人に政治家になって欲しい」と思ってはいけないし、曖昧で同じことを繰り返す政治家を見て、安易に「もっとアドリブで話してよ」と思ってはいけない。

 

*1:細かくいうと、もっと多くの過程がある。官僚は、残業の根源となるこの質問主意書が大嫌いだ。とりわけ質問通告が遅い国会議員がいると、深夜まで働かなければいけないため、相当イラついているだろう。詳しく知りたい人は、ぜひNHKの「霞ヶ関のリアル」を参照してほしい。https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/article/article_190708.htmlhttps://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/article/article_190912.html