通説以上、陰謀論未満

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「保守=新しいこと嫌いな伝統主義」とは限らない

保守と聞くと、伝統から頑なに離れない政治家を想像する人も多いだろう。しかし、保守思想の父と呼ばれるエドモンド・バークは、アメリカの独立を支持していた上に、後の自由党であるホイッグ党に所属していた。伝統から離れないはずなのに自由だらけだ。これはなぜか?

バークの保守思想

バークの保守思想は、そもそも自由を真っ向から否定するモノではなかった。

保守主義とは何か』の著書宇野重規は、以下のように説明する*1

 守るべきものは守る。しかし、変えるべきものは変えていく。それが保守主義の真髄です。現実を無視して抽象的な理念を振りかざし、ゼロから社会を作り変えようとするのではなく、これまで歴史的に構築されてきたものを活かしつつ、時代に合わせて改良していく。過去に対する深い洞察と現実主義という保守主義の知恵が、現在失われつつあるように思えてなりません。
  保守主義というとエドマンド・バークの著作『フランス革命省察』がしばしば取り上げられますが、彼はアイルランドの出身です。また、保守政治家というと、体制派というイメージがありますが、彼はほとんどの期間が野党、それものちに自由党になるホイッグ党に所属していました。バークは、アメリカの独立運動を支持しました。ときに国王と対立することも辞さなかったバークは、しかるべき役割を逸脱して、自由を尊重する良き伝統を崩そうものなら、たとえそれが国王であっても対抗したのです。
  それにも関わらず、バークはフランス革命が起きたとき、これを批判して『フランス革命省察』を書きます。彼は改革を否定したわけではありませんが、既存の社会仕組みを全て白紙にして、抽象的なモデルに基づいた新しい国家を一から作り直すことには批判的でした。さらにバークは、一見、不合理に見えるような伝統や慣習でも、過去から続いているものにはそれなりに理由があることを重視しました。それが理解できないからといって、直ちに破壊するべきではない。その前提には、人間が不完全だという認識がありました。人間の理性や知性ですべてを把握することはできないのです。

すなわち、頑なに伝統を変えないのが保守ではなく、「守るべきものを守りながら、慎重に変える」ことがバークの考える保守だった。

こうしたいわゆる「漸進的な保守」は、明治憲法体制の議会制度を守りながら改善した伊藤博文陸奥宗光原敬の流れにみられたという*2

 

大事な考えだが、「保守」という言葉遣いに注意しよう

今日では、保守の定義が混在している。伝統を頑なに守ることを保守と呼ぶ人もいれば、バークまで辿る漸進的な保守を保守と呼ぶ人もいれば、ニュースで保守政党と呼ばれている政党の考え方を保守と呼ぶ人もいる。

これらを踏まえた上で、得られる教訓は以下の二つだろう。

・「保守」や「リベラル」という言葉を聞いた時、「この人はどういう定義で使っているのだろう」と考えよう

・「守るべきものを守りながら、慎重に変える」と言いたい時は、「保守」という言葉を使わず、そのまま「守るべきものを守りながら、慎重に変えるべき」と言った方が良い

 

 

ちなみに、松尾芭蕉は、俳句に関して似たようなことを言っている。『奥の細道』の旅を通じて体得した「不易流行」という概念だ*3。変わらない大切なものをわきまえながら、同時に新しいものを取り入れる重要性を説いている。

*1:宇野重規(2019年)、U-Tokyo Biblio Plaza、https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/D_00201.html

*2:宇野重規(2016年)『保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで』、中公新書)

*3:梅川智也(2018年)「『不易流行』と観光」、全国町村会https://www.zck.or.jp/site/column-article/7210.html